きみとぼくの、失われた時間
「ねえ坂本、秋本先生って普段はどんな感じなの?」
ピタッ、動きが止まってしまう。
まさか此処で秋本センセイの話題が上るとは思わなかったんだ。
「なんで?」五本まとめてポテトを掴み、勢いよく口に放る。
「だって」昨日の秋本先生、雰囲気が全然違ったんだもん、永戸は悪戯っぽい笑みを零した。
普段の彼女はお淑やかで何事にも落ち着いた性格をしている。
それこそ大人の女性という風格を持っているのに、昨日の先生はまんま子供だった。
しかもちょっとだけ酒臭かった。
余計な付け加えをする永戸は、どうなんだと俺に質問を重ねる。
好奇心を宿した瞳にやや押されながらも、「どうって」まあ普通じゃないかな、生返事。
ついでに酒臭かったのは二日酔いだったからだと補足。
少なくとも俺の前では中学生時代の秋本が見え隠れしている。
精神的に成長した面も見受けられるけど、ふっとした瞬間に彼女は俺の知る秋本に戻る。
最近ではその傾向が強い気がした。
些細な事でムキになるところとか、注意を促すその一面とか、文句垂れる面持ちとか、見たまんま中学時代の秋本だ。
それが安心したりするわけだけど、やっぱどことなく年月の溝を感じるんだよな。
今の俺等の関係、同級生っていうよりは姉弟って言った方が適してるかも。
“お淑やか”って言葉はお世辞でも俺の前じゃ見せてくれない。
率直に相手に伝えると、ふーん、鼻を鳴らして永戸はテーブル上に頬杖をつく。
「だけど秋本先生ってさ」
ポテトを抓んだ永戸は、それを見つめて本当に優しい先生だよ、とボソリ。
よく生徒のことに気付くし、相談にも乗ってくれる先生だと永戸は普段の秋本の教師面を教えてくれた。
そっか、そこは変わってないんだな。
あいつは昔からそうだったな、困った奴がいると見過ごせない。
いつだってそうだった。
泣いている女子を見つけるとその子を慰め、泣かした男子に突っ掛かるような奴だった。
気の強い女の子だった。俺はそんな一面に惚れたんだっけ。
今も困った俺を居候させてくれるお人好しだしな。