きみとぼくの、失われた時間


「僕にもよく声を掛けてきてね。何か悩んでいたりすると、口癖のように言うんだ。“思う事があればその気持ち、相手に絶対に伝えなさい”って」

「へえ、あき…ゴッホン。桃香姉ちゃんがそんなことを?」

「うん。先生の後悔からきている口癖らしいよ。特に恋愛相談を持ちかけられたら、その子にそう言うんだって。意地張ってもイイコトなんてない…ってさ」


僕も女子から聞いた話だから真相は分からないけど、秋本先生、昔、好きって言ってくれる子のことが好きだったんだって。


だけど、その子に辛く当たってばかり。


その時は自分の気持ちが受け入れられなくて、突っぱねていたらしいんだけど、寧ろ嫌いだって思い込んでいたらしいんだけど、好きって言ってくれるその子が自分の前からいなくなって、ようやく自分の本当の気持ちに気付いたらしいんだ。


よくある話だよね。後悔先に立たず。

とうとう気持ちを伝えられないまま、先生は後悔だけを残したんだって。

 
「口酸っぱく僕達生徒に言うから、相当後悔してるんだと思う。
女子達はその子がどうなったかが気になるみたいだけど、そこまでは先生も教えてくれないみたい」

「―――…」
 
 
俺は言葉を失った。

自惚れじゃなかったら、それは多分…、いやでも、違うかもしれないだろ。違うかも…、しれないだろ。


『秋本は俺と同じように、ずーっとお前を探していたんだぞ。帰り、待っていたんだぞ。この意味、分かんねぇのか?』


遠藤の言葉が蘇る。

わっかんねぇよ、分かるけどわっかんねぇ。


『これ以上、心配掛けさせないでよ。坂本、此処にいて、いてよ』
 

分かったらきっと、駄目なんだ。

だって俺と彼女の月日は違う。
流れている時間は15年という大差、単純に時間表記しなおすと131,400時間の差異がある。

だからこれは俺の勘違いにしておこう。そう、自惚れにしておこう。
 
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