きみとぼくの、失われた時間



こうして俺達は格好を付けて“居場所探し”の旅に出ることにした。


さあ、これから夢一杯満未知一杯の冒険の幕が上がるのだ!
 

……なーんて冒険ファンタジックに決めてはみたけど、魔法も剣もない情報技術文明の世界の一国、ジャパーンで出来る旅なんて高が知れている。


ましてや俺達は金に困った中学三年生。

遠出できる旅費も持っていない。


バスで遠出したら最後、帰りは徒歩確定。


行きはよいよい、帰りはこわいになっちまう。意味が若干違う気もするけど、気にしないでおくことにしよう。


はてさて凡人の俺達に出来る冒険の旅はせいぜい見知った街中を歩くだけ。
 

ノープランの旅に永戸は乗り気じゃなさそうだったけど、俺は構わず旅のお供として永戸を連れ回した。


最初は俺の見知ったスーパーに立ち寄り、次に俺の見知らぬゲーセンに立ち寄って少しばかりゲームを楽しみ、大通りの店々を歩いて、駅前に移転したというお気に入りのたこ焼き屋でたこ焼きを頬張った。

「此処美味しい」

こんな店があるなんて知らなかった、永戸にも気に入ってもらえたみたいで俺の機嫌は上昇。
 

単純な俺は永戸のために、彼の知らない街を少し案内することにした。
 

例えば、錆びれ切ったシャッター商店街を歩いてみたり、隣町まで行く近道を教えたり、住宅街に入って俺がよく探索していた道を通ったり。

普段は家に引き篭もってばっかり、下校に寄り道なんてしない良い子くんの永戸は一々はじめて知ったと報告してきてくれる。


家でテレビゲームばっかしてるから、近所の地形を知らないんじゃねえの?


ひやかすと、「そうかも」永戸が素直に認めた。


永戸はゲームっ子かよ。

ゲームも良いけど、外でも遊ぼうぜ!

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