きみとぼくの、失われた時間
乗りもしないのにバス停のベンチで少し休憩した後、俺は永戸を連れてもう少し近所を歩く。
段々とへばってきた永戸に声援を送りながら(体力ねぇな!)、俺がどうしても永戸を連れて来たかった場所へと赴く。
そこは15年前とまったく変わっていない住宅街の丘というべき場所。
傾き始めた日の暖かさを感じながら、急斜の坂を二つほど上り、コンクリートで固められた階段を上がって、ようやく到着。
そこは一見なんの変哲もない切り開かれた場所で、数メートル先にはデッカイ二階建の家がどーんとそびえ立っている。
15年前には事務所っぽいものがあったのに、此処も風景が変わっちまったんだな。
それはさておき、此処に何があるのだと疲労の色を見せている永戸は、ぶう垂れた顔で俺を一瞥。
笑声を零し、俺は階段に座った。
「お前も座れよ」
隣に来るよう告げると、仕方が無さそうに永戸が腰を下ろす。
疲れたとぐったりする軟弱くんに、前方を見るよう指示。
興味なさそうな面で前方に視線を飛ばす永戸の表情が見る見る変わっていく。
良かった、お前にもこの素晴らしさが分かったみたいだな。
「すげぇ」感想を述べる永戸に、「だろ?」此処って景色の穴場なんだよ、と俺は頬を崩す。
坂や階段を上った閑寂な住宅街のてっぺんというべき場所から見えるのは、俺達の見慣れた、そして俺の見知らぬ街。
そう此処は俺達の街を一望できる絶景なんだ。
俺等のいる住宅街は元々裏山だった。
そこを切り崩して家々が立っているわけだから、何かと一帯は階段や坂が多い。
俺の友達がここらに住んでいたから、よく遊びに来ていたんだ。
確かに上り下りはきついんだけどさ、この景色を見つけた時の感動っていったらもう、言葉にならなかった。子供ながらに感動したね、マジで。
よく遠藤と此処の景色を見ながら駄菓子を食ってたりしたんだよな。懐かしい思い出だ。
って言っても、俺にはまだ懐かしさなんてないんだけどさ。
真っ向から射し込む日の暖かさは、旅人の心さえも暖めてくれる。浴びれば浴びるほど身も心もポカポカだ。