きみとぼくの、失われた時間
永戸と足を投げ出して景色を見渡していると、「ちっぽけだね」不意にそうお連れがポツリ。
少し前にも聞いた単語だけど、彼の声音は軽かった。
だからナニがちっぽけなのか、俺自身察しちまって知らず知らず笑みが零れる。
「だな」間置きして相槌を打った。
本当にちっぽけだな、と。
久々に足をこんなにも動かした、永戸は伸びをしてちっぽけだと繰り返した。
「なんかどうでも良くなったよ。鬱々と悩んでいたことがさ。何も解決していないのに、今はちっぽけに思える。変な話だね」
動いたことで頭がリフレッシュしたんだろ、俺は肩を竦める。
「此処から見える世界は広いしな。どうでも良くなるよな…、ちっさな悩みなんて」
本当にそうだと永戸は首肯し、恍惚に街並みを瞳に閉じ込めていた。
いつまでも、いつまでも。
俺も同じように瞳に街を閉じ込める。
そう、いつまでも、いつまでも。
「坂本。僕はさ、何もせず無い物強請りをするように駄々を捏ねていただけなのかもしれない。
こうやって居場所を自分の足で探す、なんて考えようともしなかった。
少しでも嫌な事があると居心地を悪く感じて、それが嫌で逃げて逃げてにげて。自分が悪く思われたくない一心で、悲観的になっていた気がする」
徹也のこともさ、少し窮屈さを感じていたんだ。
だって僕の肩を持ったことで、久野達と喧嘩に発展。
スポーツ大好きくんのあいつが自分から、その友達と距離を置く事態を招いてしまったなんて…、決まりが悪いこと極まりないじゃないか。
正義感からきていた行為かもしれないけど、当事者の僕からしてみれば寧ろ肩を持たなくて良かったのに、とか卑屈に思ったりして。
衝突を極力避けてきた僕だからこそ、状況に耐えられなくなったんだ。
喧嘩って行為だけでも怖じを抱く僕だから、招いた事態に気分が悪くてわるくて。
ははっ、あいつには悪いことを思っちゃったな。
これを聞かれたら、ぶっ飛ばされるどころか半殺しにされそうだよ。