きみとぼくの、失われた時間


久野はますます訝しげな顔を作った。


で、島津に言うんだ。誰と誰を誘ってるんだ、と。


「はあ?」ナニを馬鹿なことを言ってるんだ、島津は忌々しそうに返した。


一方で俺は目を見開く。

そういえばこいつ、さっきから俺に視線がいっていない。


まさか、こいつ、まさか。
 

馬鹿呼ばわりされた久野は、だってそうじゃんかよっと鼻を鳴らした。


「永戸は分かるけど、坂本って誰? お前、誰、呼んでるの?」

「へ、ナニ言ってるの? 坂本、君の目の前にいるじゃん」

「ああ? 俺の前? お前等、俺をからかってるのか? 俺の前にはお前等しかいねぇよ」
 

茶化しても俺は騙されないぞ、久野は素っ気無く返した。


途端に永戸も島津も驚愕の二文字を顔に貼り付かせる。

俺はやっぱりと顔を顰めた。

時間が無いと俺が自覚した分、環境も変化している。


世界は異質な理を排除しようとしている。

自覚した途端にこれだもんな、いつだって不思議事象は俺に優しくない。


消えるのが先か、それとも、俺の行動の方が先か、これはもう時間の問題だ。


「嘘だろ。見えねえのかよ。健のこと。おい健!」


すべての事情を知っている島津が俺を見つめてきた。

その視線を受け止め、静かに笑みを返す。

自分の両手を見つめた瞬間、体が二、三度明滅した。

永戸が目を細めてきたけど、大袈裟に驚くことはない。肝が据わっているな、こいつ。
 

「悪い島津。ファミレスに付き合ってやりたいけど、俺にはもう時間が無さそうだ」

「健、お前。もう成仏するのか?」


「え゛」今、まったく知らない声が聞こえた、久野の顔が強張る。

どうやら声だけはまだ万人に聞こえるみたいだな。多分だけど。


試しに「久野さん久野さん、俺が見えますか」声を掛けてみれば、久野は挙動不審になって周囲をキョロキョロ。

うん、声だけはまだ万人に届くみたいだ。


じゃあなんでこいつ等には見えてるんだろ。

俺と関わったからか?

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