きみとぼくの、失われた時間


おもむろに久野に歩み寄って腕を掴んでみる。 

奇声を上げて、五歩六歩後ずさる久野はなんか俺の腕を掴んだ、と顔面蒼白。

島津や永戸からして見れば、単に俺が腕を掴んだだけの光景だけど、相手にはこれっぽっちも見えていないようだ。

うん、実体を掴めることもできるみたいだな。 
 

「坂本」永戸が説明を求めてくるけど、ごめん、俺には時間が無いんだ。両手を合わせて、俺は行かなきゃと二人に謝罪。


「行くって何処に?」


島津の質問に俺は一旦、家に帰るもしくは公衆電話を探すと告げた。

連絡を取りたい相手がいるのだと微笑。

俺に携帯があればいいんだけど、生憎そんな便利機具持ってないから。


ポケベルはこっちじゃ使い物にならないし。


すると永戸は番号は分かるかと質問を飛ばしてきた。良ければ、自分のを貸すと申し出てくる。

マジで? それは助かる。
番号は常にメモとして持ってるんだ。緊急用のために。

早速携帯を俺に差し出す永戸。
 
俺は快く受け取るんだけど、向こうで昇天しそうな少年に気付いて、「あいつ大丈夫?」久野を指差した。

土色の表情をして、「携帯が消えた」意味不明、ああ意味不明、久野はよろっと足元をふらつかせている。

なるほど、俺が物を持つと消えて見えるのか。


それから…、ああ…、もしかしてオカルトとかホラーとか駄目な子か? あいつ。
 

「大丈夫?」永戸が倒れそうな久野の体を支えた。

「眩暈どころじゃねえ」俺は悪夢を見ているんだ、そうだ、きっとそう。久野はうわ言をブツブツ。


しっかりしろって、島津が微苦笑を零して相手の背中を叩いた。


ははっ、俺、本格的な幽霊になった気分だな。あんま実感はないのは、島津や永戸には俺の姿が見えているから。


メモ紙を取り出し、俺は早速電話を掛ける。
 

相手は俺の一番の親友。

秋本に電話を掛けるには、どうしても気が引けた。


コールが鳴り響く。

だけどああくそっ、出ねぇ。
なんでだ? 仕事中だってのは分かってるんだけど、頼む、出てくれ。遠藤。

苛立つ俺の様子に島津はこう助言してくる。
 
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