きみとぼくの、失われた時間
「普通、知らない電話番号から着信あったら出ねぇからな。まあ掛かっただけでも儲けだと思うぜ? 携帯設定の中に、非通知や電話帳に入っている番号以外の電話番号は着信拒否できるから。
向こうが留守電機能を設定しているなら、それにメッセージを入れたらいいかもな」
幸いな事に遠藤は留守電機能を設定しているようだ。
俺はメッセージに自分の名前と『今からお前に会いたい。無理言ってるのは分かってる。無理そうなら、夜中にでも家に行くから』とだけメッセージを残して電話を切る。
よし、これでいい。
此処から遠藤の家まで、結構距離があるけど歩けない距離じゃない。
今から遠藤の家に行こう。
秋本にはその後、会おう。
勝手に消えて、また二人を傷付けるのはもうやめにしたいから。
だから…、だから…。
手の中にある携帯が振動した。
飛び跳ねて大袈裟に驚く俺に、着信だと永戸が教えてくれる。
携帯を開いてみれば確かに着信、ディスプレイ表記は電話番号のみで名前が記されていない。
だけど、この番号はたった今、俺が掛けた番号。
慌ててボタンを押して電話に出る。
『坂本か?』
向こうから聞こえる声は遠藤のもの。どうやら島津の言うとおり、知らない電話番号には出なかっただけのようだ。
でも留守電を聞いて、掛け直してくれたんだろう。仕事中だってのにごめんな、遠藤。
「遠藤。急に悪いな。メッセージの件、どう? 無理そうか」
『今は18時か…、すぐには無理そうだな。どうデータ処理を急いだとしても、二時間は掛かりそうなんだ』
『火急か』遠藤の問い掛けに、俺は躊躇した。機具越しから聞こえてくるキーボードの叩く音。聞くだけで忙しそうだ。