きみとぼくの、失われた時間



「はい。はい。上にはそう伝えておきます。それでは失礼致します。……ったく。冗談じゃねえぞ」
 


電話を切った遠藤は荒々しく頭部を掻いて、パイプ椅子の背面に凭れた。
 

その疲労具合と電話の内容を盗み聞きしていた同期の寺嶋が書類作りの手を止め、「ご愁傷様」と隣から冷やかす。

唸る遠藤は相手を睨むことしかできなかった。

何があったかというと、此方の依頼していた仕事が向こうの発注ミスを犯してくれたのだ。

取引先のミスとはいえ、致命的な発注ミスを犯してくれたものだから、此方としても堪ったものではない。

上司にどう報告しようか、嗚呼、向こうも頭を抱えるに違いないだろう。


「勘弁してくれって。しわ寄せがこっちにもくるんだからな」
 
「何事にも寛大にならないと嫁さん見つからないぜ。おっと、お前は嫁さんに逃げられたんだっけ」
 

「うっせぇ」同意の上の離婚だ、遠藤は苦虫を噛み潰した顔でこめかみを擦る。

営業に行っている上司が戻って来たら即座に一報しなければ、深い溜息をついてパソコンの画面に視線を戻す。


まずは目の前のデータ処理を終わらせなければ。


「そういえば遠藤、お前、電話は良いのか?」


今しばらく電話の話題にすら触れたくないのだが。
 
素っ気無く寺嶋を横目で見やると、彼が事務机上に放置している携帯を指差した。おっとそうだった、親友から電話があったんだっけ。

一々教えてくれる寺嶋はなんとも良い耳をしているものだ。
人の会話を盗み聞きなんて悪趣味極まりない。
 

「相手。例のサッカー少年だろ?」


ズバリ名を的中させる寺嶋、坂本と再会したあの日以降、彼については遠い親戚だと言ってある。

胡散臭いと疑われてしまったが、真実を告げたところで馬鹿馬鹿しいの一言に限るだろう。

だったら胡散臭さを貫くしかない。親友と言ったところで信じてもらえるわけでもあるまいし。


なにせ年の差が15もあるのだから。

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