きみとぼくの、失われた時間

だから、あんたが現れたあの日、奇跡が起きたんだって思った。
　

１５のままのあんたが現れた時は肝を飛び上がらせたけど、それ以上に再会に歓喜した。


だってあの時の未練の決着が、こんなカタチでつくとは思わなかったから。

あんたはあの頃とちっとも変わっていなくて、その仕草も、癖も、口調もあの頃のままで。


嗚呼、坂本 健は戻ってきたんだって思った。
　

ねえ坂本、私はお節介だけであんたを家に置いていたんじゃないの。

私ちっとも素直じゃなかったけど、アラサーになって、１５も年の差が開いたけど…、だけど、だけどね。
　

「私はあんたのことが」

「秋本…っ、それ以上言わないでいいから。口にしなくていいよ。気持ちは伝わってるから」

　　
彼女の背中に手を回して、俺は懇願した。
　
お前はさ、俺と違って１５年分ちゃーんと生きているんだ。

時間をすっ飛ばすなんて反則もしていない。こうして生きている。

俺とは違うんだ。
大丈夫、俺にはしっかりと気持ち、伝わっているしさ。


だからもう…、なにも言わないでくれよ。


その気持ちを言われたら俺はお前を、今以上に傷付けちまうから。
　
「嫌よ」もう後悔したくないの、秋本は俺の気遣いをガン無視して強く抱擁しなおした。


「坂本、１５年前には言えなかったけど、私も好きよ。生意気で純粋で、真っ直ぐなところ、全部好き」

「―――…おまえ、さいあく」


ばかやろう、言うなって頼んだのに。
　

顔をクシャクシャして俺は彼女の肩口に顔を埋める。
　

未練が残っちまうじゃないか、消えるに消えられなくなるじゃないか。

俺はお前みたいに大人じゃない、ただの１５のガキなんだ。ガキなんだよ。口にされて冷静でいろって方が無理なんだからな。

本当はヨユーを持ってカッコつけたかったんだぞ。


なのに…、ばかやろう、秋本のばかやろう。