きみとぼくの、失われた時間
「俺は秋本のこと、好きじゃない」
好きの二乗は“好き”じゃないと思うんだ。
なあ、秋本。俺はお前のこと、好きじゃないよ。
だけど、お世辞にも最愛の言葉を言うつもりもない。
だってまだまだその言葉を口にするには早いコドモ、不似合いだって鼻で笑われちまう。
だからこの言葉を贈ろう。
着飾った言葉じゃない、真摯な言葉、コドモな俺でも似合えるこの言葉を。
「俺は秋本が大好きだ。どーしょーもないくらいに」
泣きから、見る見る泣き笑いに、まるで雨空からぽっかり青空が顔を出したように彼女の表情が崩れる。
それは俺の知る、俺の知った、秋本の笑顔。
否、初めて見る眩い笑顔。記憶の秋本と目前の秋本が笑顔が一致して、新たな彼女の笑顔が彩られる。
秋本が両膝を付いているせいか、少し俺の方が背丈的に高い。
そっと彼女を見下ろして、俺はキャップ帽を取っ払って床に落とす。
期待と予感を察知してた彼女の両頬を包んで、俺は体感があるうちに感じた。
その柔らか頬と、ぬくもりと、しとやかな唇を。
一度目は俺から彼女へ一方的な口付けを、
二度目は彼女から俺へ一方的な口付けを、
そして三度目は意識し合って口付けを。
そうして15年分の空白を埋めあうように何度も唇を重ね合った。
何度も、なんども。