きみとぼくの、失われた時間


 

1996年、某月某日の月曜。快晴。
 
 
初夏に入る手前の穏やかな気候は、今日も過ごしやすい一日になることを教えてくれる。

暖かな朝日は教室を照らし、吹き込む微風は限りなく柔らかい。

朝特有の澄み切った冷たい空気が肺を通してリラックスさせた。
 


なのにそれらを霧散させる教室の重々しい空気。



秋本 桃香(あきもと ももか)は沈鬱な面持ちで語り部に立つ担任の言葉が信じられずにいた。


努めて平坦な声音で自分達クラスメートに詳細を語ってくれるが、半分以上右から左に受け流してしまう。
 


なんで、どうして、混乱が混乱を呼び、彼女は大混乱に陥っていた。


口内の水分が急速に失われていくのをひしひし感じながら、呼吸さえ忘れて、零れんばかりに瞠目。
 



ガタン―。


向こうで荒々しく席を立ったのはクラスメートのひとり。

遠藤 学(えんどう まなぶ)、クラスの中心的存在である。
見るからにスポーツ系の体躯と、それに並行した取り巻く空気を持っていた。

 
  
「坂本が行方不明っ…、嘘だろ。山口、嘘だろ!」

 
  
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