きみとぼくの、失われた時間
「秋本、あんがとな。だけど俺、行かなきゃ」
廻り始めた時の中、この2011年という時代で俺はやるべきことがある。
だから帰れないと彼女に告げる。
晴れて念願の両想いになった矢先の破局だなんて、時って残酷だよな。
けど、このままじゃ俺は悔いを残すような気がしてならない。
すると彼女、「ご飯を食べる時間も無さそう?」突拍子もないことを聞いてきた。
真ん丸に目を見開く俺は体内時計と相談してみる。
まだ大丈夫とは思うけど、急ぐに越したことはないし。
生返事でその場を凌ぐ。
秋本は大丈夫なら一旦帰りましょうと、いつもどおりキビキビと振舞って見せた。
いやだから、帰れないって。
だって時間が経てば経つほど、俺の体は透明度は全体に広まる。
現に左足が透け始めているんだ。
この光景は俺以上に、きっと傍にいてくれる人が辛いと思う。
俺は帰れない。
秋本の傍にもいられない。
やることを済ましたら、ひっそりと消える予定だ。
「あんたって馬鹿ね。そう意地を張らなくてもいいのに」
目尻を下げて俺に歩んでくる秋本は、目の前に立ってそっと右肩に手を置いてくる。
「ひとりじゃ」寂しいでしょ、秋本は柔和に綻んだ。
「あんたって泣き虫だから、何かあったらすぐ泣くじゃない。寂しさのあまり、またビィビィ泣いたりして」
「な、泣かねぇっつーの」
決まり悪く唸る。
秋本の前で泣いたことがあるから強くは反論できなかった。
顔を顰める俺に、「それに消えるなら」彼女は儚い微笑を浮かべ、目を細めてくる。
「私の前で消えて。最後まで、あんたを見送らせてよ」