きみとぼくの、失われた時間

 
もう一度踵返してさっきのマンションまで戻った俺は、ジッと相手を見据えながら横を通り過ぎる。

少し先を歩くと見覚えのある民家が見えてきた。

秋には柿が実るその一軒家の表札を見つめて俺はこれまた首を傾げる。


此処は俺の見知った家だよな。

小学生の頃、柿を失敬していたし。


だけど隣地のマンションは俺の見知らぬ建物。

沼地があった場所には沼地がなく、その近くにあった墓地もない。



右の建物は存じ上げますが、左の建物は存じ上げません。



どうなってるんだ?



疑問が脳内で浮かんでは爆ぜ、浮かんでは爆ぜ、少しばかり俺は混乱した。


とにかく今は家に帰ろう。

此処で混乱していても時間を食うばっかりだ。俺は疑問を振り払って歩みを再開。


その後、俺はすぐに道の異変に気付いた。
 

通り道の道路が広くなっていたんだ。

俺の知る狭い道路はそこにはなく、切り拓かれたような広い道路が向こうで待ち構えている。

外灯も多くなっていたし、行きつけの駄菓子屋があった場所はアスファルトで塗り固められて道路の一部と化している。


かと思えば、俺の知る民家が数件見受けられた。


俺の知る場所と知らない場所がある。

そんな馬鹿な。
全部見知っていて当然だろ。
此処は俺の家の近所だぞ。


なんで俺の知らない土地、建物、道路が顔を出してくるんだよ。


おっかしいだろ。


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