きみとぼくの、失われた時間


「うっわぁ、相変わらず散らかった部屋だな」

 
リビングに入った俺は部屋の主に感想を述べる。

「これでも片付けたんだって」遠藤の能天気な声、「ウゲッ」悲鳴を上げたのは秋本だった。リビングの散らかりように顔を強張らせている。

男の俺は別段、気にしなかったんだけど女の秋本は我慢がならないらしい。


入って早々開かれっ放しの新聞を畳み、それで遠藤の頭を叩(はた)いた。

客を上がらせる部屋じゃないと抗議する秋本に、男の部屋なんてこんなものだと遠藤。よって遠藤は秋本にもっと叩かれた。


「あんたみたいな男をダラシないっつーのよ! 嫁さんが逃げるのも分かる気がするわ! ゲッ、靴下を椅子に放置してるし」

「洗ってあるって。仕舞ってねぇだけ」
 

「仕舞いなさいよ!」外見に反してズボラな遠藤を知ってしまった秋本は、苛々すると部屋を見渡し、寛ぐために片付けるとご命令。


こんなリビングじゃ寛げないとハンドバッグを四隅に放って片付けを開始する。

突っ立っている俺と遠藤は横目でアイコンタクトを取り合った。


片付けるだってよ、メンドクセェな、ほんとにな、そんな会話を視線でしていると彼女に怒鳴られた。


さっさと手伝え。

威圧的に睨まれてしまい、俺と遠藤は即座に行動開始。
 

溜まっていた新聞を束ね、フローリングを乾拭きし、リビング傍の台所の食器を片付けた。

これだけで午前中いっぱい掛かっちまったという。

遊びに来たっていうのに、なーんで片付け大会になったんだろう…、と思う俺がいたけど、これはこれで楽しいから気にしないことにした。
 

そうそう、これは余談なんだけど台所を片付けている際、秋本がでっかいゴキブリを発見したんだ。

その時の秋本といったら、お世辞にも可愛いとはいえない図太い悲鳴を上げて台所を逃げ回ってくれた。


ゴキブリの方も、何を思ったのか翅を広げて飛んでくれるチャレンジ精神を見せ付けてくれたもんだから、秋本は大パニック。


散々台所をメチャクチャにした挙句、部屋の主に、「ズボラばっかしてるから出るのよ!」ギャンギャンワンワン喚き散らして叩きまくっていたという。
 
ゴキブリくらいなんてことないだろうに…、ちなみにゴキブリを処分したのは俺。

遠藤は始終、秋本に叩かれていた(結構痛そうだった)。
 
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