きみとぼくの、失われた時間
寄り道を終えると、俺はアラサー二人と肩を並べて坂を上る。
内側から順に秋本、俺、遠藤。傍から見ればきっと親子のような光景だろう。
まさか俺達が全員同級生だとは思われまい。
―…まあ、他者からは中坊の姿は見えないから、傍から見れば恋人が肩を並べて歩いているようにしか見えないだろうけど。
弾む会話もなく俺達は目的地に向かう。
車だったらとっくに着いているであろう、その場所を敢えて徒歩で向かう。少しでも長く居るために。
俺は歩道と車道の境界線を歩いた。白線になぞって歩き、マンホールが現れると飛び越える。
一部始終を見守っていた遠藤が「ガキくせぇ」っと毒づく。
いいじゃねえかよ、面白いんだから。
反論して、俺はまたマンホールを飛び越えた。
そうして白線を歩いていると、手を握られたような気がした。
気がしたっていう表現は誤植じゃない。
もう触覚が殆ど機能していないんだ。
顔を上げる俺は、自分の腕を目で追い、手元に視線を留めた。
「透けてるね」握っている手を見つめ微苦笑を零す彼女に、「だな」俺は明るく笑って返す。
「あんたの手、やっぱり冷たいわよ。幽霊みたい」
「んー。俺は何も感じねぇや。触ってるのかどうかも分かねぇけど、得してるってことは分かってる。こうしてるとさ、俺達、姉弟みたいだな」
「馬鹿、あんたって空気読めなさ過ぎ」
わざとですよわざと。ちゃーんと空気は読んでいます。
舌を出す俺に秋本はやや不機嫌な面持ちを見る。
「やっぱガキだ」横目で見てくる遠藤は、俺等のやり取りに余所でやれと舌を鳴らした。
バツイチには辛い光景なのか?
余計な一言を言ったせいで、遠藤に頬を抓まれた。
そのまま引っ張られる。
痛くはないけど、なんとなく痛い気分になるのは視覚の問題か?!