きみとぼくの、失われた時間
と、今度は秋本から抱擁された。
もう感触も実体もないだろうに、キツク抱擁してくる彼女は「坂本」、俺の名前を紡いで声音を震わせる。
頬を寄せ、ポンポンッと彼女の背中を叩いた。
何度か手は背中を通り抜けたけど、気持ち的には慰めているつもり。
明滅を繰り返す現実を受け入れてくれない彼女はやっぱり無理かもしれない、と弱々しく吐露した。
「坂本に此処にいて欲しいって…思う自分がいる」
秋本…。
「折角再会できたのに、またいなくなるなんて」
「幽霊でも」傍にいてくれるだけで、楽しかったのに、と彼女。
項垂れてはらはら感情の雨粒を落とす。
身を切られるほど辛いその台詞に尻込みする俺がいるけど、此処は15の俺がいるべき世界じゃない。
2011年の世界はアラサーの俺がいるべき世界だ。
俺は此処にいちゃいけないんだ。
俺の居場所は此処にあるけれど、この時代にはない。
分かって欲しい意味を込めて、俺は彼女を抱擁を返す。
すり抜けるばかりの手は無視することにした。
「秋本」彼女の肩に手を置き、「行かせてやろうぜ」俺の気持ちを酌んでくれる親友は教師に優しく言葉を掛けた。
「こいつは戻りたいんだよ、1996年に。15の俺達と一緒にいたいんだ。俺達と一緒にアラサーになりたいんだよ。俺達と約束だってしてくれたじゃねえか。そうだろ、坂本」
うんっと俺は頷いた。
2011年の二人は大好きだけど、15の俺は望んでいる。15の同級生達と一緒に過ごしたいって。
同じ教室で授業を受けたいし、卒業式にも出たい。
別々の道に進もうと同じ時間を過ごし生きていきたい。
俺はいつまでも15のままじゃ駄目なんだ。