きみとぼくの、失われた時間
「いなくなるんじゃない」
坂本は帰るんだ、15の俺達の元に、遠藤は辛抱強く秋本に言い聞かせてくれる。
否、自分自身にそう言い聞かせているのかもしれない。
消えやしない、大丈夫、こいつが過去に帰ることで、未来は変わるじゃないか、
「きっと15の俺達が坂本を見つけてくれる」
遠藤が秋本の肩を抱いて同意を求める。
鼻を啜る秋本は、小さく首肯してくれた。
「だけど」
私達のことは忘れないでよね、秋本にしっかりと釘を刺された。
勿論だよ、俺は忘れない。
2011年という時間を、決して忘れやしない。
アラサーと初キスしたことだって忘れてやるもんか。
「戻れなかったらまたこっちに戻っておいで、居候させてあげるから」
秋本に頬を撫でられて、俺は照れくさく鼻の頭を掻いた。それはそれで考えておくよ。
ザァアアッと風のざわめき、石段から突風が吹いてくる。
目も開けられないほどの突風らしく、秋本の肩を抱いている親友と、遠藤に肩を抱かれている両想い人が、目を硬く閉じた。
神社から下りて来たのか、何枚もの名も知らぬ落ち葉が道路へ。
そして2011年の茜空に舞い上がる。
まるで意思を宿したかのように、風はいつまでもいつまでも俺達の周りで吹きすさぶ。
俺はゆっくりと彼女の腕から出ると、目を抉じ開けようとする二人に満面の笑みを浮かべた。
お別れだ。