きみとぼくの、失われた時間

  
手を振って石段を一段いちだん軽快に上る。


染まる紅色の空、夕陽を体いっぱいに浴びて段を上っていく。

二人にはもう俺の姿が見えないのか、それとも突風のせいで視界に俺が映り難いのか、視線の焦点が定まっていない。


だから代わりに声で俺に伝える。



「帰って来い、坂本! 絶対に帰って来いよ! 15の俺達の下に!」


遠藤。

お前とはいつの時代でも、親友だ。




「坂本っ、忘れないでよ! 私はあんたのことが―――…!」


分かってるよ、秋本。

俺も同じ気持ち、気持ちなんだ。
俺は向こうの時代と、この時代で、同じ人物に二回も恋に落ちた。
 


 
遠ざかる同級生の声と強まる風、速まる足。
 

石段を上りきった俺は迷うことなく、時代の迷子を呼んでいるご神木に駆け寄った。


ご神木前で立ち止まった俺は、そいつに触れる前に今一度、その姿を熟視する。

木肌が夕陽色に染まっているご神木、太い幹に枝々に青々とした葉。


すべてにおいて長生きしているんだって思える貫禄だ。

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