きみとぼくの、失われた時間
居心地が悪くなった俺は誤魔化すように街並みに目を向けて、腹の虫を鳴かせて、空いた手で鼻の頭を掻く。
「君、秋本桃香って知ってる?」
ふと飛ばされた質問。
俺は知った名前を耳にして希望を見出したような気がした。
知っているようで知らない街を独りでうろつきまくっていたから、多少ならず不安があったんだ。
でも今、この姉さんは俺の知っている名前を口にした。
それだけで大きな安心感が俺を包み込む。
あ、そうだ、この人伝いに秋本に会おう。
失恋なんてこの際、今は置いておいてクラスメートに会おう。
「秋本桃香は俺のクラスメートだよ。お姉さん、あいつのいとこ? すっごく似てるけど」
そしたら姉さん、くしゃくしゃに顔を歪めて俺を抱き締めた。
街中なのに人目も気にせず、両膝を折って、痛いほど俺を抱擁したんだ。
なんでこんなことされるか分からなかったけど、相手の正体を知った途端、俺は目の前が真っ暗になった。
だって、目前の姉さんが秋本張本人だったのだから―――…。