きみとぼくの、失われた時間

<03>1996年の彼女



「―――…坂本、もう帰るの?」
 
 

それはある日の昼休み終了間際のこと。

午前中いっぱい保健室で授業を受けていた俺は給食を食べ終え、遊びに来た遠藤と軽く駄弁った後、帰宅するために靴箱へと赴いていた。

上履きから下履きに靴を履き替えようとしていた時に背後から声を掛けられ、話は冒頭に戻る。
 

首を捻った俺は、セーラー服姿の女子生徒に目一杯戸惑った。

えーっと彼女は秋本、だよな。

だよなぁ、俺の見知った秋本だ。

 
けど、アラサーと毎日まーいにち過ごしていたせいか、目前の秋本に違和感を覚えてしまう。

慣れって怖いな。

こっちが本来の秋本の姿だっていうのに、違和感バリバリだなんて。


というか、お前から話し掛けてくるなんて珍しい。
殆ど俺から話し掛けていたよな、この時代は。
 

質問に答えていなかったことを思い出し、俺は帰ると返答。

まだ学校生活のリズムを取り戻せていない、少しずつ慣らしていこうと思う。

彼女に告げると、「そう」意味深に相槌を打つ彼女は、さっさと帰りなさいよと突っ返してくる。


それってあれか、真っ直ぐ帰れって解釈してもいいのか?
 
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