きみとぼくの、失われた時間


そんな日々を送っていたある日。


保健室で勉強をしていた俺の下に秋本がやって来た。
正しくは保健室に休みに来た。

どうやら具合が悪いらしい。腹痛があるとかないとか。

保健の先生曰く、「女の子の日ね」と言っていた。

女の子の日と聞いてもピーンと来なかった俺だけど、女にしか分からないものだと解釈して深くは考えないようにした。

ベッドで休めばいいのに、わざわざ椅子に腰掛けてテーブルに伏している。


それなりに離れた距離で勉強をしていた俺は、彼女の存在を気にしつつ、理科の教科書のページを捲った。

遠藤に貸してもらったノートと見比べながら、ノートに化学記号を書いていく。
 

えーっと還元ってのは 酸化とは反対のことで。
対象とする物質が電子を受け取る化学反応のことを指す、と。


「坂本、ひまー」


向こうから呻き声と共に、面白いことはないかという無茶振りが飛んでくる。

お前なぁ。俺は見たまんま勉強しているだろうよ。

暇そうに見えるか?


ったく、お前はおとなしく腹痛に堪えとけって。

喋るのも辛そうだぞ。寝ときゃいいのに。


俺は彼女の言葉を右から左に聞き流して勉強に集中する。

「ねーえ」積極的に話し掛けられた。
俺は吐息をついて、走らせているペンシルの手を止める。
 

「秋本さん。俺、勉強中」

「あんたって勉強するタイプじゃないでしょ」


痛いところを指摘してくるよなー、お前って。

このアラサーめ、小声で毒づいた。

思いのほか、向こうに聞こえていたようで「アラサー?」何の話よ、彼女に怪訝な顔をされる。

慌てて俺はなんでもないと誤魔化し笑い。

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