きみとぼくの、失われた時間
「坂本、最近好きな子でもできた?」
理科の勉強を終え、数学に手を出そうとしていた俺に変化球の質問が飛んでくる。
秋本はいつも唐突だよな。
今するか、その質問。
一応此処は保健室で、時間帯的に言えばまだ授業中だぜ?
向こうには保健室の先生もいるっつーのに、大胆だな。
「なんで?」
通学鞄にノートや教科書を仕舞いながら、相手にその質問の意図を尋ねる。
間髪容れず、自分に対して雰囲気が違うからと返された。
というか前とまったく違う気がする。
なんというか大人っぽくなったよな、おとなしくなったような、控えめになったような。
落ち着いている雰囲気がするものだから、好きな子でもできたんじゃないかと聞いたらしい。
「この状況で好きな子も畜生もあるかよ」
素っ気無く返す俺はつい意地悪く、お前はお付き合いするんじゃないのか、とクエッション。
顔を強張らせる秋本に告白されていた光景を目撃した、と口角をつり上げる。
動揺している彼女はあっさりと告白された事実を認め、けれどお付き合いはしないのだと即座に否定した。
「質問にちゃんと答えてよ」
強気に聞いてくる彼女に、微笑して俺は肩を竦めてみせる。