きみとぼくの、失われた時間
「そういえば、秋本の奴。今度結婚するつってたな。相手は誰だろう……、高橋、超ショックを受けていたみたいだけど」
担任の名を口にする島津に、「あの人じゃないの?」彼が恋人だって言ってたあの人、永戸が肩を竦める。
“彼”という単語に島津は口を結んだ。
暫し沈黙を作った後、「帰れたかなぁ」思ったことを口にする。
事情を聞いている永戸は、さあっと肩を落とした。
それは神様だって分からないことではないだろうか。
「すげぇ短い間だったけどよ。何年もダチしているような奴だったな」
アイスを食べ終わった島津は足元に置いていたサッカーボールを蹴り上げ、軽くリフティング。
「そうだね」
永戸がまた会いたいね、と同意を求めてきたため、肯定した。本当にまた会いたい。
「あら、永戸に島津じゃない。何してるの、こんなところで」
グダグダに喋ってひと時を過ごしていると、第三者から声を掛けられた。
「やっべ」不意を突かれた島津はサッカーボールを変なところに飛ばしてしまう。
ちぇ、舌打ちをして視線を流せば、噂をすればなんとやら、担任である。
いつも以上にめかし込んでいる身形、プライベートでの担任はどうやらお洒落さんのようだ。風に揺れるロングスカートがやけに目を惹く。
「秋本じゃねえかよ」
なんだよ、顔を見るだけで気分が萎える。
教師に会うとか超萎える。
島津の言葉に彼女は口元を引き攣らせた。
容赦ない拳骨を食らうのは自業自得だろう。
心底呆れている永戸は、こんなところで何をしているのだと質問。
買い物にでも行くのか?
問い掛けに、ちょっと決まり悪そうな顔を作る彼女は頬を赤らめて、あれよあれ、と言葉を濁してくる。