きみとぼくの、失われた時間
「普通にデートって言えばいいじゃねえかよ。なあんで今更照れてるんだ、秋本センセイ?」
笑声が聞こえた。
「煩い!」振り返る担任は怒声を張って盛大に照れ隠しをした。
二人は目を削ぐ。
ゆっくりとした歩調で彼女の隣に並ぶ人物は噂の結婚相手だろう。
島津の転がしたサッカーボールを拾い、あっ気取られている中坊に目尻を下げると、
「あらよっと」
前触れもなしにリフティングを始める。
踵でボールを蹴り上げ、自分の手におさめた彼は子供のように頬を崩して意気揚々と口を開いた。
「島津。永戸。俺の腕前、上がっただろ?」
「なによ」私の生徒と知り合い? クエッションを頭上に浮かべる担任を余所に、彼はサッカーボールを人差し指で回しながら呆然としている二人に言うのだ。
「約束は守っただろ?」
あの時は何も思わなかったけど、お前等、ガキくせぇな。マジ若いって感じがする。
相手の皮肉もなんのその。
我に返った二人は、「お前こそ親父じゃんか」「君が結婚相手?」とびっきりの笑顔を作って彼との対面、否、再会を喜んだ。
「何だよこのやろう。秋本とデキてるの、お前だったのかよ! じゃあなんだ、あの時からデキてたのか?! うっわぁあ、犯罪っ、生徒と教師がなあにしてるんだ!」
「うっせぇ島津! あの時とは事情がちげぇっつーの!」
「うっわぁあ、雰囲気違うようで……、あんまり中身は変わっていないね。良かったね、徹也。奢ってもらえるよ」
「マージかよ永戸。それ、まだ継続中か? しっつけぇな。15年も前の話だろ? あ、お前等にとっては最近かもしれねぇけど」