きみとぼくの、失われた時間
俺は力なく相手に視線を向けてうなずく。
「ほんとに?」
念を押して聞く姉さんにもう一度頷いてみせ、俺は膝に置いている通学鞄に目を落とした。
で、おもむろにチャックを開けて内ポケットから生徒手帳を取り出す。
それを無言で差し出すと、姉さんは確かめるように表紙を熟視。
じわっと目が潤んでいる。
中身を開いてパラパラと捲ってるけど、中は生徒会規約や校則、校歌、んでもって白紙ページくらいしか載ってないんだけど。
姉さんは満足したのか生徒手帳を返してくる。受け取った俺は、意を決し怖々と口を開いた。
「お姉さんは…、秋本なの?」
間髪容れず頷く姉さんは、「そうよ」秋本桃香よ、と返答。
信じられない気持ちで一杯になった。
だって俺の知る秋本桃香は15で同級生なのに。中学生なのに。
「ちなみに…、歳、聞いていい?」
すると秋本はものすっごいヤな顔を作った。
ナニ、俺、なんか悪いこと聞いたか?
たっぷり間を置いて「30」と、姉さんからお返事を頂く。
俺は思わず素っ頓狂な声を上げて「おばちゃんじゃん!」相手を凝視。
頭部に拳骨を貰ったのはこの直後だった。
「イッテェー!」痛みに悲鳴を上げると、
「デリカシーのないところは坂本そのものね」
心外だと姉さんは腕を組んだ。
なんでだよ、中坊からしてみれば立派におばちゃんじゃんかよ。
だって二倍も歳の差があるんだぞ。
二倍、そう二倍も。
……二倍も。
頭を擦っていた俺の手は自然と膝へ。
そのままズボンを握り締める。
皺が残るほど強く握り締める。
やっぱり信じられない…、姉さんが秋本なんて、絶対に。