きみとぼくの、失われた時間
山口と呼ばれた男の教諭は、軽く眉根をハの字に下げた。
嘘ではないと言わんばかりの表情で山口は遠藤に座るよう、そして落ち着くよう促す。
「今、警察が動いているから、大丈夫。すぐに見つかるさ」
陳腐でありきたりな言の葉で生徒を宥めようとするものの、遠藤は激しく動揺を見せた。
「マジかよ。嘘だろ、坂本」
坂本が行方不明だなんて、まさか本当に消えちまったんじゃないだろうな。
消えそうな声で独り言を紡ぎ、彼はようやく弱々しい動作で腰を下ろす。
行方不明になっているクラスメートの名前は坂本 健(さかもと たける)。
先週の金曜の夜から土日を挟んで行方不明になっている。
警察は事件性の可能性は低く、家出の可能性が強いのではないかと見て捜索していた。
最初こそ、大人の誰もが思っていた。
中3の少年はすぐに見つかるのだと、思春期にありがちな反発心からの家出なのだと。