きみとぼくの、失われた時間
「今日、俺っ…、学校で秋本におはようって挨拶したんだ。あいつ、素っ気無く挨拶を返してきたんだぞっ…、ちゃんとした15歳だった。同級生だった。
なのに、なんで数時間で30のおばちゃんになっちまうんだよ。意味分かんねーよ」
今度は拳骨が飛んでこなかった。
それだけ俺が情けない顔をしているからかもしれない。
現実の辛酸に溺れそうでついつい、「秋本はっ」俺と同級生なんだよ、声音を鋭くして気丈を保つ。保とうとした。
でも保てなかった。
言葉にすればするほど、不安・混乱・絶望が湧き水のように溢れ出てくる。
「やっぱ俺」家に帰る、鞄を持ってドアに手を掛けた。
家に帰ったら家族がいる。
そうに違いない。
こんな現実、信じられるわけない。
「ちょっと待って、坂本!」
腕を掴まれて制される。
放してくれよっ、俺は帰るんだと訴えれば、
「駄目よ…」
あんたが今帰ったら、御家族はパニックもパニックになる、姉さんは落ち着くよう宥めてきた。
嫌だ帰るんだ、腕を振り払おうと躍起になった俺の行動がピタッと静止してしまうのは三秒後。
息を呑んで俺は姉さんを凝視。
「もう一度…言って?」
声音を震わせて、相手に掛けられた台詞を繰り返すよう頼む。
姉さんはくしゃくしゃな顔を作って告げた。
「15年前、坂本は行方不明になってるの。あんたっ、マスコミに騒がれるほどの失踪事件を起こしてるのよ」