きみとぼくの、失われた時間
「―――…坂本、シートベルト締めて。なんか食べて落ち着きましょう」
優しい声音、並行して撫でられる頭。
うつらうつら顔を上げれば、
「お互いに混乱してるみたいだから」
温かいものでも食べて、まずは落ち着きましょう。お腹減ったでしょう?
姉さんがニコッと柔和に微笑んでくる。
何も考えられなくなった俺は姉さんの案に乗ることにした。
指摘されたとおり、腹、減ってるし。
うんっと頷いて、俺は足を座席下へ。
スニーカーに爪先を突っ込んで、転がっていた鞄を俺の膝に乗せた。
「こら。シートベルト」
注意を促され、俺はゆっくりとした動作でシートベルトを締める。
横目で確認した姉さんは、「よし」気分を入れ換えるようにエンジンを掛けた。
ついでにテンションを上げようとラジオを点けてくれる。
けど。
『2011年×月×日、ナイトタイムコーナーにようこそ! これを聴いてくれているリスナーの皆さん、グッドイブニング!
気分もアゲアゲに早速大人気のコーナー、リクエストミュージックにうつってみようか!』
……、2011年。
やっぱり今は2011年なんだ。
民間ラジオ番組かもしれないけど、ラジオ番組がリスナーに日時を伝えたんだ。間違いないんだろうな。
自嘲を零す俺に、「こんの」KYラジオ番組、テンションアゲアゲにさせるような発言しなさいよ! 姉さんはガミガミと文句垂れてボタンを押した。
まったくもってありえない、音楽でも流すか、盛大な独り言を口にする姉さんを流し目にして、俺は素朴な質問を口にする。
「なあ、ケーワイってなんだ?」
聞きなれない単語に俺は瞬きした。
「英語の一種か?」真面目に質問した筈なのに、向こうは瞠目、次いで笑声を上げた。
……超失礼な態度なんだけど。