きみとぼくの、失われた時間


「―――…坂本、シートベルト締めて。なんか食べて落ち着きましょう」


優しい声音、並行して撫でられる頭。
 
うつらうつら顔を上げれば、

「お互いに混乱してるみたいだから」

温かいものでも食べて、まずは落ち着きましょう。お腹減ったでしょう?

姉さんがニコッと柔和に微笑んでくる。

何も考えられなくなった俺は姉さんの案に乗ることにした。
指摘されたとおり、腹、減ってるし。


うんっと頷いて、俺は足を座席下へ。

スニーカーに爪先を突っ込んで、転がっていた鞄を俺の膝に乗せた。


「こら。シートベルト」

注意を促され、俺はゆっくりとした動作でシートベルトを締める。

横目で確認した姉さんは、「よし」気分を入れ換えるようにエンジンを掛けた。

ついでにテンションを上げようとラジオを点けてくれる。


けど。


『2011年×月×日、ナイトタイムコーナーにようこそ! これを聴いてくれているリスナーの皆さん、グッドイブニング!
気分もアゲアゲに早速大人気のコーナー、リクエストミュージックにうつってみようか!』


……、2011年。

やっぱり今は2011年なんだ。
 

民間ラジオ番組かもしれないけど、ラジオ番組がリスナーに日時を伝えたんだ。間違いないんだろうな。


自嘲を零す俺に、「こんの」KYラジオ番組、テンションアゲアゲにさせるような発言しなさいよ! 姉さんはガミガミと文句垂れてボタンを押した。


まったくもってありえない、音楽でも流すか、盛大な独り言を口にする姉さんを流し目にして、俺は素朴な質問を口にする。


「なあ、ケーワイってなんだ?」
 
  
聞きなれない単語に俺は瞬きした。

「英語の一種か?」真面目に質問した筈なのに、向こうは瞠目、次いで笑声を上げた。


……超失礼な態度なんだけど。

< 32 / 288 >

この作品をシェア

pagetop