きみとぼくの、失われた時間
眉根を寄せる俺の頭をわっしゃわっしゃと撫でた姉さんは、
「そうか。15年前にはない単語だっけ」
なんていったって若者言葉だもんね、と面白おかしそうに微笑してくる。
なんかわっかんねぇけど、羞恥心が込み上げてくるぞ。
結局意味は何なんだよ、俺は不貞腐れてそっぽを向いた。
ごめんごめん、姉さんは俺の態度に片手を出して謝罪。意味を教えてくれた。
「空気を読め。略してKYよ。各々頭文字を取ってKYって言ってるの」
「どういう時に使うんだ?」
「周囲の状況にふさわしい言動ができない奴を指すのよ。例えば―…っ、あんのクソ教頭とかっ、剥げ校長とかっ、親馬鹿過ぎるご両親様とか!」
ハンドルを握り締めて青筋を立てる姉さんは、苛々すると口元を引き攣らせた。
あんま教師を舐めるんじゃないわよ、独り言が愚痴に変わったのも時間の問題。ハンドルを叩いて、ブツクサと悪口(あっこう)を吐き出している。
姉さん、教師なのか?
それにしちゃあ、らしくない発言ばっかりしてるけど(秋本「いっぺん地獄に落としたいわよ。あいつ等っ!」)。
でも、なんだかその姿を見てると俺の知っている秋本と面影が重なった。
いつも俺に悪態をつく秋本と姿が薄っすらぼんやり重なる。
そう思うと、少しだけ安堵した。
ぎこちなく頬を崩す俺に気付いたのか、姉さんは咳払いを一つ。