きみとぼくの、失われた時間
「こういう意味よ。分かった? 分からないなら流してちょうだい」
完全に誤魔化されてしまった。
仕方がないから触れないでおこう。
姉さんはデッキのボタンを押して音楽を掛けてくれる。
聴きなれないポップな曲が車内を満たした。
「よし、行こうか。そう時間は掛からないから」
ウィンクする姉さんは、どうやら俺を家に連れて行ってくれるようだ。
発進する車は俺を乗せて道路を走り始める。
軽快な曲調をBGMに俺は流れる景色を見つめた。
あれは見知った景色、向こうは見知らぬ景色。
知っている、知らない、知っている、知っている、知らない、知らない、シラナイ。
目を細める。
此処は、この世界は本当に2011年、15年後の世界なのかなぁ。
そうだとしたら、この状況、俺の知らない景色があることも説明はつく。つくけれど。
そっと窓ガラスに寄りかかって俺はひたすら、流れる景色を見つめ続けた。
無機質なガラスの冷たさが現実を教えてくれる。
無愛想な街並みが俺を見下してくる。
混乱が俺の胸を締め付ける。
そんな俺を、姉さんはそっとしておいてくれる。
彼女の家に着くまで、いつまでも、いつまでも、そっとしておいてくれた。
その優しさに、俺の知る“あいつ”を鮮明に思い出したけれど、それは俺だけの秘密だ。