きみとぼくの、失われた時間


20分程度、車を走らせた先に姉さんの自宅はあった。

自宅と言っても一軒家じゃない。
住宅街の景色に溶け込むような、それなりに大きなマンションだった。

神社近くのマンションほど立派じゃないけれど、真下から見上げれば、それなりに貫禄がある。

あくまで“それなりに”だけど。
 

姉さんは曰く、一人暮らしらしい。

だから気兼ねなくお邪魔していいと言ってくれた。

他にも何か、声を掛けてくれた気がするけど正直、パンク寸前の俺には受け付けられなかった。


彼女も俺の気持ちを察していたんだと思う。


下車して呆然と立ち尽くす俺の背中を押し、「入った入った」明るく声掛け。

半ば、俺を引き摺られるようにマンション内へ入った。
 

オートロック式のマンションは一々鍵を指揮台のような突起物に挿し込み、自動扉を開ける。
 

その光景は俺にとってあまり物珍しい光景じゃない。

何故なら親友宅もオートロック式のマンションだったからだ。

ただ数は少なかったと思う。

今の時代はどうなんだろう?
オートロック式が主流になってしまっているのだろうか?
 

姉さんに連れられてエレベータに乗り込む。

彼女は『4』のボタン、そして『閉』を押し、エレベータを稼働させた。


がたんと一揺れするエレベータ内、俺は肩に掛けている通学鞄を握り締めて必死に現実逃避をしていた。

まだこの現実は夢なんじゃないかと希望を捨てられずにいる。
 

ふっと彼女の横顔を盗み見。

姉さんの背丈は俺よりも高い。俺が今、159cmだから、きっと彼女は160cm超えだろうな。

俺の知る秋本は、俺よりちょっと背が低かったっていうのに。


鬱々とする反面、ちょっち彼女を見て笑声を漏らしてしまった。


「パンダみたいだ」崩れた化粧を指摘すると、

「ほっといて」気恥ずかしそうに姉さんは鼻を鳴らす。


何気ないやり取りがささくれ立った心を癒してくれる気がした。
< 35 / 288 >

この作品をシェア

pagetop