きみとぼくの、失われた時間
エレベータを降りると、早足で俺達は姉さんの部屋に向かった。
二重ロックされている扉の鍵を解除して彼女の部屋にお邪魔する。
フローリングの廊下の先に待っていたのは、こじんまりとしたリビング。
部屋の中央に置かれた小さなテーブル台、その下に敷かれている桃色の絨毯。
それなりに大きなテレビと束ねられた若葉色のカーテン、四隅には仕事用のデスク。
何か作業でもしていたのか、書類が山積みされている。
飛び込みでお邪魔したっていうのに、彼女の部屋は案外綺麗に片付けられていた。
性格が物語っているのかもしれない。
リビングに立ち尽くす俺は、取り敢えず姉さんに何処にいればいいのか尋ねようと振り返る。
「あれ?」彼女の姿はなかった。
どうやら洗面所に向かったらしい。
水音が聞こえてくる。
相当、化粧が崩れたことを気にしていたようだ。
微苦笑を零した俺は、当たり障りのないよう部屋の隅に移動させてもらった。下手に何か触ったら怒られそうだしな。
部屋に移動する途中、俺はテレビ台に目がいった。
思わず歩みって覗き込む。シンプルな額縁に飾られているのは写真。
友達だろうか、女性数人がブイサインをして映っている。
場所までは特定できそうにないけど、野外で撮った写真だってことは分かった。
右端には姉さんが映っている。
あどけない笑顔は俺の知る秋本そのものだった。
化粧を落とし、ついでに着替えて部屋に戻って来た姉さんは早速、俺のために夕飯を振る舞ってくれた。
寄せ物で作ったものだから申し訳ないと詫びをしてくるけど、鍋焼きうどんは十分すぎるほどのご馳走だった。
器に入ったうどんを口に入れて初めて分かったけど、俺はかなり空腹だったみたい。早いスピードでうどん麺を啜ってしまう。
一心不乱にうどんを啜る俺を微笑ましそうに見守っている姉さんから、不意に美味しいかと尋ねられて、「超ウマイ」俺は即答。
「料理、上手なんだな。凄くウマイよ」
「空腹が調味料になったんでしょう」