きみとぼくの、失われた時間
照れ隠しの台詞を吐いて、姉さんは麦茶の入ったコップを手に取る。
褒められてとても嬉しそうだ。
半分ほどうどんを食べた頃だったか、ちょっと俺の気が落ち着いた頃合を見計らって姉さんは質問を飛ばしてくる。
「幽霊じゃないよね」と。
サラダに箸を伸ばしていた俺は動きを止めて、「足はあるよ」常識的なことを口ずさむ。
それに幽霊なら飯なんて食えるものか。
体、透けてもないし。
ちゃんと生きていると返答して、死んでるように見えるかとクエッション。
顔色が悪いと言うのなら、それは今の現状のせいだと思う。
苦笑いで受け流す姉さんは、「なんか信じられなくて」率直な気持ちを伝えてきた。
実はまだ、姉さんも混乱しているようだ。
俺の方が数十倍数百倍も混乱してると思うんだけど、気持ちは酌んでおくことにしよう。
「今まで、何処にいたの?」
なるべく刺激しないよう物を訊ねてくる姉さんは、俺の顔色をチラチラと窺った。
「近所の神社にいた」
そこで昼寝をしていたんだと俺は正直に話す。
そして目を開けると、この世界にいた。
15年も月日が流れているというこの世界にいたんだ。
まるで浦島太郎にでもなったような気分だと俺は肩を落とす。
だって目を開けると別世界が待っていたんだぜ?
まさしく浦島太郎だろ、俺。
「近くの神社? おかしいわね。そこも警察が捜した筈なんだけど。私も、そこ、捜したし」
首を傾げる姉さんだけど、俺は嘘なんてついていない。
つけるかよ、こんな状況で。
「あのさ、お姉さん」
今度は俺から質問を飛ばそうとする。
だけどその前に姉さんは心底、驚いたような顔を作った。
「お姉さんはやめてよ。坂本に言われると変な気分。秋本でいいわよ」
そうのたまわれても、俺にとって姉さんは姉さん、秋本は秋本だ。
二人が同一人物だという現実に、未だ受け入れ難い俺がいる。
口をへの字に曲げる俺だったけど、相手を困らせるのもなんだから、「秋本。あのさ」換言して再質問。