きみとぼくの、失われた時間
<01>折り重なる現実
* * *
恐ろしい光景を目の当たりにして、飛び起きるってことはよくある現象だ。
誰しもが経験しているその現象を、人は悪夢と名目している。
俺も例外でなくこの15年間、悪夢と呼ばれる夢を幾度となく見てきた。
悪夢を見る度、布団を跳ね除けて起床。
夜明け前の自室を見渡し、「夢か」と安堵の息をついてもう一寝入りするってのがお馴染のパターンなんだけど。
今回は“悪夢”ではなさそうだ。
カーテン越しから感じる射すような朝日によって叩き起こされた俺は、ゆっくりと瞼を持ち上げる。
満目一杯に広がった光景は見慣れない天井。無愛想な天井が俺に早く起きろと急かしているよう。
瞬きをして寝返りを打つと、初めて見る毛布が視界に飛び込んできた。
そっと触れて感触を楽しむ。
わりと気持ちの良い毛布の手触りだけど、家の毛布ではない。こんな毛布、初めて見る。
上体を起こして、ひとつ欠伸。
室内をぐるっと見渡す。見慣れない壁に、見慣れない窓、見慣れない部屋。此処は一体…。
まだ目覚めていない脳みそをそのままに、布団から抜け出てドアノブに手を掛けた。扉をそっと引いて廊下に出る。
素足でフローリングを歩いているせいか、足の裏に無機質な冷たさが伝わってくる。
どことなく俺の体温を奪うよう。
おかしいな、靴下を脱いだ覚えはないんだけど。
ぼーっとする頭でリビングに入ると、そこにはテレビを観ながら珈琲を啜っている女性の姿。
俺に気付いて、「おはよう」子供っぽい笑みを浮かべてくる。
―…秋本だ。
「疲れてたみたいだから、起こさなかったんだけど…、よく寝てたわね。もう11時よ」
15年後の秋本が俺の目の前にいる。
そっか、夢じゃなかったんだ。
夢だったらどんなに良かったことか。
一抹の期待を砕かれた気分だったけど、表には出さず、俺は綻んでくる30の姉さんにおはようと返した。