きみとぼくの、失われた時間


2011年、某月某日。月曜の晴天。
 

 
「秋本先生。またお見合いの話、断ったらしいですね? いいんですかー、もう三十路を迎えたのに」

 
 
おどけ口調で同僚の富窪 朋美(とみくぼ ともみ)に声を掛けられ、

「世間は晩婚化してますから」

秋本は微苦笑で返す。


秋本 桃香は今年で三十路を迎えた極々平々凡々な中学の教諭だった。


教師としてはまだまだ若手だが、生徒達の目線に立って物事を見、話すことができる教師だと生徒からはわりかし人気を得ている。
 
この度、教頭の勧めにより見合い話を持ち込まれたのだが、秋本は丁重にお断りした。

それなりに恋愛は重ねてきたものの、まだ身を固める気分ではない。

気持ち的にも自由の身でありたいと願っている。




それが断った大きな理由だった。
 


親からは身を固めろと煩いが、自分の人生だ。好き勝手させて欲しい。

富窪から「またお誘いがあったら自分に回して下さいね」、と揶揄される。



オーケーオーケー。

せいぜい回してやろうではないか、秋本は悪戯っぽく笑い快諾した。



「ほんと駄目なんですよね。私、恋愛になると足が遠退いちゃって。そんな私が見合いなんて、無謀にもほどがありますよ。相手にも失礼ですし」

「先生の恋愛話を聞く限り、そう長続きはしていませんよね。大体1年で終わるって聞きましたし」
 


恋愛に対して淡白なんですか?


富窪の疑念に、三拍ほど間を置いて肩を竦める。


「中学までは恋愛にがっついていた筈なんだけどね」


どうしてこんな大人になってしまったんだろうと秋本は軽く瞼を伏せた。


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