きみとぼくの、失われた時間


片隅で分かっている、自分は“あの頃”の恋愛を引き摺っているのだと。

  
思い出したくない封した記憶の蓋を開けてみる。

そこから溢れ出るものは一生懸命自分に好きだと告白してくれた、少年の姿。
 

いつも鬱陶しいとあしらい、好意に対してそっぽを向き、片意地を張っていたあの頃。
 

まさかその少年が行方を晦ますなんて思っても、思っても。




嗚呼、こんなことになることならば、好きと告げられた時、素直に好きと返せば良かった。



後悔先に立たず、だ。




 
「秋本先生?」


ダンマリになる自分を不可解に思ったのだろう。
 

何か悪い事を聞きましたか? 配慮ある台詞を頂戴する。

首を横に振り、秋本は事務机に積み重なった生徒のノートを手に取りながら、

「枯れたんですよ。きっと」

自分の恋愛絶頂期は中学だったのだと微笑で誤魔化した。
 

過去の人にしたくはない。

けれど彼は行方を晦ましてしまった、過去の人。
 

待てど暮らせど現れない少年に、いつまでも思い焦がれているわけにはいかない。
 
 
―――…そう強要され、強く思わされるのだから、月日とは残酷だ。
 
 
哀切に時間を呪わざるを得ない秋本だった。
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