きみとぼくの、失われた時間
その日の暮夜。
秋本は早めに退勤することができたため、馴染みの学校を出ると軽車に乗り込んで近場の映画館にでも行こうかと考えていた。
レイトショーだと入場も割引されるだろうし、少しは娯楽が欲しい。
ストレス発散としてなにか映画を観たい気分だ。
というのも、現代の教諭というものはすこぶるストレスが溜まる。
学級崩壊にモンスターペアレント、子供の人権に体罰等々。
些少のことでも世間に騒がれるため、気疲れしてしまう。
心労でうつ病になることも多々な職業だ。
配属された学校は自分の母校、まだ親しみがあるためなんとかやっていけているが、それにしても疲労は絶えない。
今日だって…、ああ、やめだやめ。
仕事を思い出すと鬱々な気分になってしまう。
気分転換しなければ。
今はなにが上映されているだろう。
軽く胸を弾ませ、ハンドルを切った。
彩られたネオンの街並みを背景にアクセルを踏んで、夜の道路を走る。開けている車窓から生暖かな風を感じた。
信号機が青から黄に色を変える。
このまま突っ走ったら間に合うだろうか、いや、間に合いそうにない。
ブレーキに足を掛け、ゆっくりと停車。
赤に変わった信号機と睨めっこしながら、早く青になるのを待つ。
そうしている間にも、歩行者は横断歩道行き交い。
右へ左へ流れて各々歩道に渡ってしまう。