きみとぼくの、失われた時間


時刻が時刻だからか、OLやリーマンが多い。

中には年配も見受けられるが、大半は働き盛りの大人達。秋本は軽く吐息をついてハンドルに肘を置く。

皆、疲れた顔をして渡っているが、自分もさぞ同じ表情をしているに違いない。

日常につまらない顔を作っている。

現代の大人って皆、そんな顔を作っているのではないだろうか。


「こんな大人になるつもり、ちっともなかったのになぁ」

 
大人になるってもっとキラキラとして、夢のあるものだと思っていたのに。

今の日本ときたらバブル崩壊以降、景気は右肩下がりだし、赤字大国になるし、就職難だし。

年金だってもらえるかどうか危ういだなんて、ほんと、お先真っ暗な世の中を生きている。

 
サンタさんはいるんだって思っていた純粋な子供に戻りたい。


秋本は大人になった今の自分と向き合い、心底願わずにはいられなかった。
  
 
 


「―――…え?」
 
 


 
時が、止まったような気がする。
 

秋本は呼吸を忘れて、向こうの歩行者達を凝視。

流れている歩行者の大半は大人、けれどその中に子供の姿がつくねんと見受けられた。


やけに周囲を見渡すものだからその子供、否、少年は一際目立った。


学ランを身に纏い、肩にくたびれた通学鞄を掛けている少年は、困惑したように街並みを見渡して左から右に歩道へと渡っていく。


目の錯覚だろう。


他人の空似に決まっている。

そうだ、そうに違いない。



でなければどう説明すればいいのだろうか。

 


だけど、だけれど。




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