きみとぼくの、失われた時間


「ん、ああ。公園で同僚とサッカーしてるの、偶然見かけたからな。それに帽子なんてかぶってなかったし」
 
 
ゲッ、チクんなって遠藤。

当時の状況を聞かされた秋本はぽかんとして俺に視線を投げた。

で、意味を理解したのか「あんたバッカでしょ!」帽子は被っときなさいよ、近所にばれたらどうするの! ヤンヤン捲くし立ててくる。

ううっ、悪かったって。反省はしてるよ、反省は。

「しかもサッカーって」呆れ返ってくる秋本に、「いやつい」夢中になっちゃって、俺はボソボソと言い訳。



「家の中ばっかいたから……、ちょっと楽しくなってさ。今度からは気を付ける」



両手を合わせて謝罪をする。

秋本はちょっと間を置いて、「そっか」そういう年頃だもんね、遊びたい年頃だもんね、教師らしく気持ちを酌んでくれた。

自由に行動できない、その窮屈さに理解を示してくれた秋本は、坂本には生き辛い世界なんだろうね……と小声になった。

なんだか申し訳なくなって、「でも俺」こうやって居候させてもらってるし、と明るく返した。


「秋本がいなかったら俺、それこそニュースになってたよ。2011年の世界をワケも分からず彷徨ってただろうし。
遠藤も、その、ありがとうな。

あの時、助けてくれなかったら、俺……、どうなってたか」
 

「……、なあ秋本。さっきの話だけど、やっぱ今日にしていいか?」


俺の感謝を受け流す遠藤は、しんみりなっている秋本に何やら意味深な事を訊ねていた。


「私もそっちの方が良いと思う」

 
頷く秋本は、暫く宜しくねと遠藤に微笑んでいた。

ああ、綻ぶ遠藤は任せとけと頷き返す。

おいおい、俺、総無視ですか。
一体何の話をしてるんですか、二人とも。
 

「お互い独り身だとこういう場合、気が楽よね。ああ、遠藤はバツイチだったっけ」
 
 
内容を聞く前に、二人はもう別の話題を挙げ始めた。それは恋愛話について。

バツイチと言われている遠藤は、「スピード婚は駄目だぞ」長続きしねぇっと溜息。

よくもまあ二年も持ったと自分を慰めているけど、え、二年。


ちょ、遠藤……、お前。
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