記憶の桜 -栄枯幻世-
原田がかけるもんを取りに行っている間、源さんが盆を持ち、湯呑みなどを片付けに行った。
縁側には、俺とあの女しかいない。
俺はあの女の顔にかかる黒く艶のある髪を払う。
「ん…っ」
やべ、起こしちまったか?
「会いたいよ…、父上…、母上…、愁…」
長い睫毛が伏せてある瞳から涙が零れた。
涙があの女の白い頬を伝う。
俺は頬を伝う涙を拭ってやると、頭を撫でる。
「大丈夫だ、涼」
独りで耐えるな…、苦しむな…。
此処にいる限り、お前は俺達が支えてやるから。
「ふぁああ…」
俺は涼の頭を肩に乗せたまま、眠りについた。