あたしの彼は『ヒドイ男』
うそでしょ。
そんなわけ、ないよね。
頭の中に勝手に浮かぶ不吉な想像を、なんとか笑い飛ばそうとしたけど、前に進もうとした左足の膝が、ガクガクと震えていることに気が付いた。
手足が冷たい。
うまく息ができない。
頭の中にぐるぐると回る悪い予感にどうしていいのかわからずに、ただその場に立ち尽くす。
「ねぇ、えり子。あっちの方向って……」
消防車が走り去った方向を見て、ミナがぼうぜんとつぶやいた。
だめ、言わないで。
言葉にしたら、この悪い予感が現実のものになってしまう。
私は遠くで鳴り響くサイレンを、ざわざわと外を覗く野次馬たちの喧騒を、となりにいるミナの言葉を、振り切るように走り出した。
お願い。
嘘だって、言ってよ。