あたしの彼は『ヒドイ男』
その時私はなにかを叫んだ。
喉がちぎれそうなほど、全身で悲鳴を上げた。
これどそれは言葉にはならず、燃え盛る炎の轟音にかき消され、自分の耳にすら届かなかった。
アパートに飛び込もうとした私を、誰かが羽交い絞めにした。
「危険ですから下がって!!」
聞き覚えの無い声でそう怒鳴られる。
「でも……、中にカズがいるの」
だから、助けにいかなくちゃ。
私の言葉を無視して、大仰な防火服を着た消防士が、私をアパートから遠ざける。
離して、お願い。
中にカズがいるの。
あの炎の中に、私の好きな人がいるの。
そのつぶやきを聞いて、私を羽交い絞めにしていた消防士が気の毒そうに顔をそらした。
諦めろ。そう顔に書いてあった。