あたしの彼は『ヒドイ男』
 


『ふざけんな。今するわけねぇだろ』

『えー、じゃあいつならしてくれるの?』

『そうだな。じゃあ一年後とか』

『本当? 一年後の今日、プロポーズして愛してるって言ってくれる!?』

『あ?』

『聞こえないフリしないでよ!』

『わかったよ。覚えてたらな』

『絶対ね! 忘れないでよ?』

『多分、忘れる』

『もう! ヒドイ!』

『お前、ウルサイ。本当に俺が好きなら、黙って信じて待ってろよ』


そう言いながら、引っ越しの片づけも放り出して、ライオンが牙をむき、ウルサイ私の口を塞いだ。

床に置かれた段ボールの陰に隠れて、まだカーテンすらかかってないアパートの一室、もつれるように服を脱がしあい、笑いながら抱き合った。

カーペットも敷いていないから、肌に触れるフローリングが堅くて冷たくて。
でも抱きしめてくれるカズの腕は暖かくて、幸せで笑いながら泣いてた。



その部屋が今、
目の前で燃えてる。





< 54 / 74 >

この作品をシェア

pagetop