あたしの彼は『ヒドイ男』
 

嘘。

誰か嘘だって言って。

お願いだから。



アスファルトにへたり込んだ私を、誰かが力いっぱい抱きしめた。
ぼんやりと顔を上げると、ミナが泣きながら私を抱きしめていた。

「ミナ、カズね約束してたの。今日、プロポーズしてくれるって」

「えり子……!」

燃え盛る炎の音
何かがショートする破裂音
建物が崩れ落ちる音
消防車のサイレン
野次馬の声


この場所はうるさすぎるよ。
こんなにうるさかったら、カズの声が聞こえないじゃない。


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