あたしの彼は『ヒドイ男』
「まさか、あれが最後の言葉になるなんて、思ってなかったから……」
「えり子ぉ……っ」
ミナが嗚咽をこらえながら、私の目の前で音をたてて崩れるアパートを隠すように立ち、視界を覆うように頭を抱きしめた。
「あれが最後になるんなら、大好きだって言えばよかった。ちゃんと信じてるって、愛してるって……っ!」
言いながら、気が狂いそうな後悔に、喉をかきむしる。
耳障りな泣き声が聞こえると思ったら、それは自分の声だった。
「どうして、どうして……!」
絞り出すように叫んで、空を仰いだ。
夜空は煙で覆われ、月も星も見えなくて。
舞い上がる火の粉だけが、涙でうるんだ視界にぼんやりと滲む。