あたしの彼は『ヒドイ男』
「え……?」
驚いて顔を上げると、カズの長い指が私の頬にかかる髪を優しくかきあげ、耳にかけてくれた。
露わになった耳に、カズがそっと顔を近づけた。
窓から射しこむ秋の日差しが、店内のタイルの床の上に私たちの影を落とす。
寄り添ったふたりの影が、まるでキスをしているみたいに重なっていた。
「お前はいつも幸せそうな顔して、俺のことだけ見てればいい」
耳もとでそう囁かれ、鼓膜を震わせた甘い響きに、胸がきゅんと締め付けられた。
このお店に通い始めて半年後。
ようやくカズが私に振り向いてくれた時も、そう言ってくれた。