あたしの彼は『ヒドイ男』
二年前片想い中の私は、いつものカウンターの席で、いつものようにぼんやりとカズの姿に見惚れていると、たまたま隣に座ったサラリーマンに声をかけられ世間話をしていた。
『どんなお仕事してるんですか?』とか、『何歳なんですか?』とか。
そんな差しさわりのない話をしながらも、視線は大好きなカズの姿ばかり追いかけていた。
『もし彼氏がいないんなら、番号交換してくださいよ』と唐突に言われ、隣に座るサラリーマンに視線を移そうとした時、私の視線を遮るように、大きな手が私の顔の前に差し出された。
長い指、節の浮き出た手の甲、いつも水仕事をしているせいで少しかさついた手のひら。
その手が、サラリーマンの方を向こうとした私の顔を、自分の方に向き直させた。
見れば、不機嫌そうな顔をしたカズが、私のことを見つめていた。
「……余所見すんな」
突然こんな至近距離で見つめられ、驚いて瞬きする私に、カズは口元を引き上げて意地悪に笑った。
「お前はいつも幸せそうな顔して、俺のことだけ見てればいい」
「――はい」