あたしの彼は『ヒドイ男』
俺様な命令に、何も考えずに素直に頷いてしまった私は、今考えても都合のいいバカな女だと思う。
だけどもしかしたら、具合の悪い私に真っ先に駆け寄って抱き上げてくれたり、サラリーマンに言い寄られた私に気づいてくれたり……。
「もしかして、カズもずっと私のことだけ見ていてくれた?」
目の前で不機嫌そうに頬杖をつくカズに聞いてみたら、ハッと鼻で笑われた。
「やっぱりお前、鈍感すぎ」
「なにそれ」
「なんでもない」
ふんとそっぽを向いたカズの耳は、秋の日差しのせいか微かに赤く見えて、私は思わずいつもの言葉を口にしてしまう。
「ねぇ、カズ」
「あ?」
「好き」
「あっそ」
「大好き」
「知ってる」
勝ち誇ったように笑われて、ムッとしながらテーブルについていたカズの手をつねる。
こんなに好きだって言ってるのに、言い返してくれないなんて、やっぱりカズはヒドイ男だ。
そのヒドイ男の左手の薬指には、シンプルなプラチナの指輪。
これからも一緒にいようねという約束の証。
窓から射す柔らかな秋の光を反射する、私の指輪とカズの指輪を見ながら、幸せだなと思った。
あたしの彼は『ヒドイ男』。END