カナリア鳴く空
今時珍しい、礼儀正しいかわいい子だな。

そう思いながら楽屋に入った私に、
「あれ?

君塚さん、何かいいことあったんですか?」

佐々木が聞いてきた。

「ああ、たった今ファンに会ったんだ。

10代の若い女の子だ」

そう言った私に、
「へえ、かわいかったですか?」

佐々木が目を輝かせながら聞いてきた。

「なかなかの美人だよ」

答えた後、佐々木が用意してくれたコーヒーを口に含んだ。

この時、私は気づかなかった。

いや…気づいていたとしても、私はどう行動を起こしていたのだろう?

――優衣に、恋をしたこと

まだ、気づかなかった。
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